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腎不全の治療法について教えてください

知人の猫が慢性の腎不全になってしまい、病院で毎日点滴をしてもらっているようです。続き
そのお陰か調子は良くなっているようなのですが、今は点滴を続けているだけで他の事はしていないようです。
点滴だけで充分なのですか? また何のために点滴をするのですか?
お忙しいことと思いますがよろしくお願いします。(いるかちゃんさんより)


お友達の猫が慢性腎不全で点滴をしているとの事ですね。慢性腎不全のお話をすると長〜くなってしまいそうなので、まとめてお話をしようと思いますが、それでも長くなりそうです。我慢して読んで下さい。

猫は他の動物に比べて、慢性腎不全になることが多いようです。一般に猫の慢性腎不全は高齢になってくると発生し易い病気で、食欲がなくなったり、吐いたり、急に痩せてきたり、と言った症状で発見される事が多いのですが、それより前の症状として半年〜1年(猫によってその期間はまちまちですが)以上前から多飲多尿(お水を沢山飲み、おしっこの量も増え、色や臭いは薄くなります)を表す様になります。この多飲多尿しか現わさない時期は食欲も元気もあり見逃してしまいがちですが重要です(しかし糖尿病等他の病気でも多飲多尿を現わすことがあるので、気付いたら早目に動物病院で受診してもらった方が良いと思います)
おそらくお友達の猫も多飲多尿の時期があった事と思います。
本題に入る前に腎臓の4つの働きについてお話し致します。

■体の水分が一定になる様に調節しています。
例えばダム湖が体の水分で、ダムの役割をするのが腎臓です。ダム湖の水がいつも一定になるように、ダム上流で雨が降らなければダムを閉め、上流で沢山降ればダムを開けるといった事を腎臓が担当しています。慢性腎不全はダムにひび割れが入ってしまい、そこから水が沢山もれ出してしまう状態と考えて下さい。
→多尿の状態:初期はこれを補おうとして多飲になります。病気が進み補えなくなると体の水分は不足し、脱水症状になって急に痩せてしまいます。

■体の老廃物の排泄をします。
生きていく上でどうしても体の中でつくられてしまう老廃物(例えばアンモニアや尿素窒素等:正確には体内で出来たアンモニアが肝臓で尿素窒素というものに変わりこの尿素窒素を腎臓が尿の形で排泄します)が腎臓の機能低下により血液中に蓄積されてしまう状態を尿毒症と呼び、食欲がなくなったり吐いたりします。原因物質はちょっと違いますが気分的にはひどい二日酔いのような気持ち悪さで猫はいると考えて下さい。

■電解質やミネラルの排泄や再呼吸をします。
体に必要な物質を再吸収し、体に余分な物質を排泄します。

■血(赤血球)を造るために必要な物質を腎臓が分泌しています。
したがって慢性腎不全が進むと貧血を起こしてくる事があります。

以上4点が腎臓の代表的な働きです。

お友達の猫がしている点滴の役割は
1.多尿により体から水分がどんどん出て脱水症状に対する水分補給。
2.点滴することにより腎臓を流れる血液量を増やし機能の落ちた腎臓をフルに働かせ、体の老廃物の排泄を促す。
3.電解質のバランスの調節。

以上の3点が点滴の役割で、お友達の猫は点滴のおかげで脱水症状や尿毒症が改善され、調子が良くなっていると思います。

他の治療について
この点滴療法が木で言えば幹となります。他の治療は枝葉としても重要(あるいは簡易・経済的)と思われる順に述べてみます。
1.腎臓病用の特別食(処方食):食欲がない場合や食餌が変わると食べない猫もいます。
2.飲み薬で腸内にある老廃物の元を吸着させるお薬。
3.貧血を伴う場合には造血を促す注射。
4.最近では腎臓の血液の流れを良くする薬も応用されるようになってきました。
以上の4点ですが点滴なしには効果は期待できません。

いるかさんのお友達の猫は点滴だけで良くなっているので良いと思いますし、今述べた、その他の治療は今の段階では必要ないとかかりつけの先生が判断していることと思います。何か治療に関して疑問がある場合は今、私がお話し致しました事を参考にして、かかりつけの先生に素直に相談してみれば良いと思います。

慢性腎不全だけでなく、多くの病気は同じ病名でも、症状や病気の程度・原因の違いや、併発症の有無、その他様々な要因によって治療内容や経過も違いますので、今回私がお話し致しました事は一般論として受け取って頂ければ幸いです。(2002.9.10)