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貧血と脾臓の塊について教えてください

(シベリアンハスキー/オス/7歳/名前・トリスタン)
愛犬の大病と向き合い、手術に対してどう考えたら良いのか大変悩んでおります。御教示頂きたく、続き何卒宜しくお願い致します。
7歳、シベリアンハスキーのオスです。
屋外で飼っております。
2年前に、ピンポン玉程のお乳の部分の腫瘍(術後、乳癌と診断されました)を摘出する手術を受けております。術後は、お陰様で元気に暮らしており、この2年間はアガリクスを適宜与えておりました。
6日前の8月15日に、体温が40.1℃も出て、軽い熱中症を発症しました。
倒れて20〜30分後位に獣医師の方に往診にいらして頂き、体を冷やしたり、点滴や注射等の治療をして、熱は39℃台になり、その後も朝晩と往診にいらして頂き、同治療をしましたが、16日夜に40.3℃になり、17日朝、貧血がひどくなり舌がかなり白い症状になった為、その医師の勧めにより、2年前に手術をお願いした動物病院に緊急入院致しました。(往診にいらして頂いた医師の病院は、現在入院設備等が無い為)
17日の診察では、
「エコーの結果、腹部に10cmの大きな塊があり、脾臓に出来ている様です。液体が溜まっている様にも見えます。貧血で(非再生性貧血)、熱中症の治療をしながら、内科的に骨髄を刺激して血を作る様な治療をします。造血剤の点滴を1日おきか2日おき位にします。脾臓に出来ている可能性があります。大きな塊と貧血が関係あるのかは分かりません。」
という説明を受けました。
18日からは熱は平熱に下がり、ご飯は朝昼夕と少しずつ食べているそうです。
血液検査の結果は、
17日  RBC 326、WBC 490、
19日  RBC 363、WBC 516、でした。
19日に面会に行った所、はしゃぎまくり、普段より少しだけ大人しいかな…という位、元気です。舌は、その時見る限りでは、少し白いかしら…という感じでした。
手術をする場合、脾臓摘出となる様で、成功(生存)の確率はわからないと言われてしまいました。
手術をするかどうかの判断を求められていて、大変悩んでおります。
次の3点について詳しく教えて頂けたらと思います。
【1】この場合、脾臓の摘出は、どの位急がなければならないのでしょうか?
【2】手術を受ける体力が回復しているかどうかは、何をもって判断すれば良いのでしょうか?
【3】手術をしなくとも済む方法は何かありませんでしょうか?
どの飼い主さんも同じだと思いますが、私共も、実の息子の様に可愛がっている犬なので、とてもとても辛いです。
御教示頂きたく、何卒、宜しくお願い致します。(タカさんより)


タカさんこんにちは。
7才オスのシベリアンハスキーのトリスタンくんの貧血と脾臓の10cmくらいの塊に関してのご質問ですね。
それに加え約2年前に乳癌の手術を受け(雄での乳癌はめずらしいですね。私自身は診察したことはありませんが、まれにはあるようです)また、先日の8月 15日は軽い熱中症に患り、翌日も40.3度と体温が高い状態が続いているとの問題があります。

乳癌の方は術後2年経過しているので、現時点で転移や再発がなければ完治している可能性がかなり高いと考えられますので、今回はあまり問題ではないと思います(乳癌と脾臓にできた10cmの塊との関係は確実には否定しきれませんか……)。

次に、熱の方は18日からは平熱に下がり、食欲もでてきているようですので、良い徴候です。私の回答をご覧頂くころにはもっと元気になっていることを期待しております。

診察して下さっている先生のお話では「脾臓摘出の成功(生存)の確率はわからない」とのことですが、一般的には手術を受ける動物側の健康状態に問題がなければ(食欲や元気の程度はもちろん獣医師による血液検査等を含む、その動物に麻酔をかけるための術前の検査で異常がなければ)脾臓摘出の手術自体は、それ程危険度の高い手術ではないと思います。
ただし、脾臓の塊が破裂し易い程大きくなっていたり、他の臓器との癒着が激しい場合は、注意が必要になると思います。かかりつけの先生は、おそらく手術の技術的な問題ではなく、トリスタンくんの現状の状態が麻酔に耐え得るかに不安があるという意味で「成功の確率はわからない」とおっしゃられたのではないかと思います。

したがって【1】、【2】、【3】のご質問にお答えする前に(ご質問と重なる点もあるかもしれませんが)一番重要なことは手術や麻酔に対してトリスタンくんが十分に耐えうる、体力、体調になることです。
そのためには、貧血の回復、熱中症からの完全なる回復、その他一般身体検査や血液検査等、一般的に行われている麻酔前の検査に異常がないことが理想です。
ただ、貧血の原因は万が一、脾臓にある場合は、脾臓を摘出しなければ、回復しない貧血もまれにありますので、診察して下さっている先生のおっしゃるように、「脾臓にできた大きな塊と貧血」との因果関係をはっきりさせたいところです。

脾臓に塊ができる原因は色々とあります(腫瘍・血腫・過形成・・・etc)。
いずれの原因でも、もしその原因により貧血が起きた場合、ほとんどは再生性貧血を示します。したがって、トリスタンくんの場合は非再生貧血ということですので、脾臓の大きな塊とに因果関係がある可能性はかなり少ないのではないかと考えます。
もしそうだとすると、非再生貧血を起こしている原因をつきとめるか、あるいは現在行って頂いているように、骨髄を刺激する造血剤等の貧血に対する内科療法を試みて、貧血が回復するか否か調べてみる等の対策が必要です。(その他WBCが490、及び516とありますが、正確には490×102(49000)及び516×102(51600)なのではないかなと思いますが、その値も平常な値と言えませんので、注意が必要であり、さらなる状態把握が必要です)
以上が私の考えの概要です。

次に、ヘレナさんのご質問への回答です(今まで私がお話ししたことを含めてお読み下さい)。

【1】脾臓の摘出を急がなくてはいけないケースとしては、現在の症状が脾臓の病変によって起こっている場合です。今までお話し致しましたように特種なケースを除いて、現在の症状と脾臓の病変とに因果関係がある可能性はかなり少ないと思われますので、トリスタンくんの回復を待ってから行った方がいいのではないかと思われます。

【2】手術を受けるための体力の回復は何をもって判断すべきかのご質問ですが、現在行って頂いている治療によりトリスタンくんの一般状態(食欲や元気等)が通常に近くまで回復することと、麻酔前の検査で異常がないことを確認することです。

【3】手術をしなくても済む方法とは、
(1)今回の症状や問題が脾臓の病変と全く因果関係がないと明白になること。
(2)脾臓の大きな塊が放置しておいても(おそらく)問題を起こさないものであることの確認がとれること。
以上の2点をクリアすれば、手術せずに経過観察でも良いと思われます。ただし、(2)に関して、この塊が放置しておいて良い物か否かを調べることはかなり難しいことです。一般的には状態が悪くなければ試験的開腹を行ったり、あるいは開腹し、脾臓を摘出し、それを病理組織検査により調べるといった方法が取られることが一般的だと思います。
トリスタンくんの回復を祈っております。(2005.8.24)