第9回
【知って得する動物の病気の豆知識 その5】
「乳 腺 腫 瘍」
今回は犬や猫の乳腺腫瘍についてお話し致します。
乳腺腫瘍とは、言葉の通り乳腺にできる腫瘍のことを言います。乳腺にできる良性の腫瘍を乳腺腫と言い、悪性の腫瘍を乳ガンと言います。この良性の腫瘍と悪性の腫瘍をまとめて乳腺腫瘍と呼びます。(ただし良性の乳腺腫とは言え放っておいても良いとは言えません。徐々に大きくなったり、他の乳腺に転移することも多いので、ここで言う良性とは、すぐに命にはかかわることはないけれど・・・・。という意味で、早目にちゃんと治療した方が良いと認識しておいて下さい。)。

 

動物にも乳腺腫瘍以外に様々な種類の腫瘍がありますが、今回乳腺腫瘍をとりあげた理由として
  1. 乳腺腫瘍は内臓の腫瘍と違って体表(乳腺)にしこりとしてできるので飼い主さんにも容易に発見できる腫瘍だからです。
  2. 犬の乳腺腫瘍は犬の全ての腫瘍の中で、一番多い腫瘍だからです。全ての腫瘍のうちの33%は乳腺腫瘍であり、人間の乳腺腫瘍の約3倍の発生率と言われています。又、犬の場合乳腺腫瘍の約50%が悪性の乳ガンなのです。
  3. 猫の乳腺腫瘍は猫の腫瘍の全ての中で約17%を占めており、犬の33%に比べれば発生率はやや低いものの猫の乳腺腫瘍の約90%が悪性の乳ガンなので注意が必要だからで
 以上のように犬で乳房(腫瘍性の)にしこりができた場合50%が、猫では90%が悪性の乳ガンなのです。日頃体をなでてあげながら乳房にへんなしこりがないか観察してあげることが早期発見につながります。

 

 

 乳腺腫瘍が出来ても一般的には痛みなどはありません。元気も食欲も全くかわらず、飼い主さんとしても病気と認識できずに様子を見ているうちに手遅れになってしまったケースも少なくありません。いっけん元気でも体の内では肺や内臓に転移を起こし、少しづつ体をむしばんでいくところが人間のガン同様、ガンの恐ろしさでもある訳です。
 犬は約5才(ヒトに換算すると約36才)くらいから、猫の場合はそれよりやや若い年令から、乳腺腫瘍の発生が増加しはじめます。したがって、その位の年令になったら1ヶ月に1回くらいは乳房を触って、小さなうちにしこりを発見して下さい。一般的には小豆〜大豆大で発見する飼い主さんが多く、これは「早期に発見できた」と言えます。早期に発見できれば手術により再発の可能性が非常に少なく、完治も可能です。
直径が2cm(1円玉大)をこすと、すでに転移をしていたり、手術をしても再発する可能性が高くなり、完治が望めなくなるという報告もあります。

 

[乳腺腫瘍は早期発見・早期治療が一番重要!]

 

 

-乳腺腫瘍の予防-

 

 予防は2才半(できれば最初の発情の前が最も乳腺腫瘍の発生を予防する効果が大きい)までに避妊手術をすることです。なぜなら研究により犬の乳腺腫瘍の発生には性ホルモンが関係していることが判っているからです。できれば最初の発情の前に、避妊手術をすると乳腺腫瘍の発生は限りなく”ゼロ”に近づきます。
それ以降、2才半までは発情を重ねるにしたがい対数的に乳腺腫瘍の発生率は上昇し、2才半以降になると避妊手術をしても乳腺腫瘍の発生率は手術をしてない犬とほとんどかわらなくなってしまいます。

 

[乳腺腫瘍の予防は、若いうちに避妊手術をしておくことです。]

 

又、避妊手術をしておけば不幸な子犬・子猫を増やさないばかりではなく中年以降に発生しやすい卵巣や子宮の病気(子宮内膜炎や子宮蓄膿症あるいは卵巣ガンや子宮ガン)の予防にもなります。

 

 今月は腫瘍の中で一番発生率の高い「乳腺腫瘍」についてお話し致しました。もの言えぬ動物の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私達に安らぎを与えてくれているお返しとして、動物達が楽しく健康でいられる様に気づかってあげる事は飼い主さんの務めとも言えるでしょう。
この「動物病院だより」が少しでも皆さんのお役に立てばと考えています。他にも、こんな事を知りたいという事があれば、お気軽にお電話でご相談下さい。(ご相談内容をこの「動物病院だより」の題材にさせて頂くこともあるかと思います。)
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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