第17回
【知って得する動物の病気の豆知識 その13】
「核家族化と分離不安症」
先日ペット相談室に「長時間ひとりぼっちにさせるとペットシーツをグチャグチャにしてしまいそうで……」という相談がありました。(返答済)
そこで今月はお約束通り犬の「分離不安症」についてお話し致します。

 

ここ数年、動物病院の診療のなかで、いわゆる“精神科”の問題として注目されだしたこの「分離不安症」は、日頃はとても良い子なのに飼い主さんが不在の時に限り、色々な(飼い主さんにとって困ってしまう)問題を起こしてしまう行動を言います。
その「分離不安症」の代表的な症状は、無駄吠えや遠吠え、家具やペットシーツ等の破壊行動(電気コードを咬んで感電し口を火傷してしまったマルチーズのワンちゃんを診察したこともあります)、普段では考えられない場所での排便・排尿などです。
その他にもハァーハァーしたり震えたり、嘔吐や下痢、手や足等を舐め続け脱毛や皮膚炎を起こすこともあります(ただし分離不安症以外の病気でも今述べた症状を現わすこともあるので、短絡的に分離不安症と決めつけるのは危険です。動物病院に相談してみて下さい)

 

近年、人で核家族化が進み、家族の一員として大切に育てられる動物達が増えてきた事は喜ばしいことではありますが、一方で愛情を注げば注ぐほど飼い主さんの存在(飼い主さんへの依存心)が大きくなり飼い主さんがいなくなった時、「分離」に大きな「不安」を感じ、前述したような不安からの問題行動を起こしてしまうケースが増えています。特に犬という動物は、群れで生活するオオカミの習性を多くの点で共通しているので、群れ(犬の場合は家族)に変化が起こるということは大きな問題であり不安を感じてしまうのです。

 

 

それでは、どんな犬が「分離不安症」を起こしやすいのでしょうか?

 

■原因
  • 小さい頃から常に飼い主さんと一緒にいる環境で育てられる。
  • 飼い主さんのライフスタイルの変化で、ある時から突然長時間の留守番をさせられるようになる。
  • 外出時や帰宅時に、「行ってくるからね(=これからひとりぼっちになるんだよ)」とか「ひとりぼっちにさせてごめんね」と帰宅してすぐ愛情を注ぎ過ぎてしまう。このようにすると在宅と不在の違いを強調してしまうしつけをしている事になってしまいます。

 

それでは「分離不安症」を現わす場合はどうしたら良いのでしょうか?

 

 

■治療
  • 単に溺愛してしまうのではなく、しつけを含め、犬の習性を勉強し理解しましょう。
  • 外出の前ぶれを察知されないようにしましょう。鍵やバックを持つ・化粧をする・電気を消す等外出時の行動を外出時以外にも行い、これらの「前ぶれ」=「ひとりぼっちになってしまう」という関連づけをしないようにする。
  • 外出のふりをしてドアから出て、すぐにドアから入る練習を何回もして、ドアから出ていく事がずっとひとりぼっちという訳でないと思わせましょう(10秒〜5分程度:基本的には短い時間から始めますが慣れてきたら長・短の時間をおりまぜましょう。また、その時間には規則性がないようにしましょう)それでも問題行動を起こしてしまう場合には、ドアノブにさわるだけから始め、次にドアの開閉だけという具合に少しづつ慣らせましょう。
  • 外出はさりげなく。帰宅時に喜んで近づいてきても15〜30分は無視し、犬が落ちついてから接するようにしましょう。
  • 帰宅時に問題行動が起こってしまっていても怒ってはいけません。排尿していたらだまって拭いておきましょう。
  • 外出時に犬にとって特別お気に入りのおもちゃやコング(内側にピーナッツバター等を塗って)等を与えましょう(外出=楽しいおもちゃ)
  • 犬の安心できる場所をつくりましょう(クレートあるいはエサや水・クッション等の入るサークル)
  • 分離不安症に対して治療効果のあるお薬が動物病院にあります。前述の行動療法との併用により治療効果が非常にアップします。

 

 

どの犬もひとりぼっちになると「分離不安症」を示すわけではありません。
例えば日頃の行動を見て、常に(飼い主さんがトイレに入っても)飼い主さんについてくるような犬は要注意です。愛犬に無秩序に愛情を注ぎ過ぎるとかえって飼い主さんへの依存心を増長させ、結果としてストレスを感じさせてしまうことがあるという少々皮肉な現象です。
行動療治には、今回示したように作戦が必要であるとともに根気も必要です。一朝一夕には解決しにくい問題ですが、少しずつでも毎日継続していくことが大切です。環境等ケースバイケースの事もありますので、困った場合にはかかりつけの動物病院に相談してみて下さい。

 

もの言えぬ動物の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの務めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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