第20回
【知って得する動物の病気の豆知識 その16】
「(心臓性の)咳:特に僧帽弁閉鎖不全症について」
早いもので、この「動物病院だより」も第20回を迎えることができました。
多くの方に読んで頂き、時には「大変参考になりました」とお返事を頂くこともあり、本当にうれしく思っております。これからも「身近な病気や飼い主さん達が知りたい事」を知って得する豆知識として発信していきたいと思います(マスダ動物病院院長 増田敏行)

 

 

今月は特に中年以降の小型犬で多く発生する、咳を主症状とする心臓病:僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)についてお話致ししたいと思います。
犬や猫の咳を聞いた事はありますか? 私の病院の患者さんも「“ケッケッ”と何だか喉に魚の骨でもひっかかったのかしら?」と来院するケースがあります。
診察の結果、「何も喉にはひっかかっていませんよ。この子は咳をしているのですよ」といった具合に何か喉にひっかかるような“ケッケッ”とするのが犬や猫の咳なのです。

 

咳には大きく2つの原因があります。

 

1.呼吸器性の咳
風邪の時のように、喉や気管支・肺等の空気の通り道に炎症などの異常が起きた時に出る咳。
(代表的な病気:犬ではジステンパーウイルス・パラインフルエンザウイルス・アデノウイルス・ヘルぺスウイルス等の感染症、猫ではヘルペスウイルス・カリシウイルス・クラミジア等の感染症。〔第7回「動物病院だより」犬のカゼ・猫のカゼ〕を参考にして下さい。又、ジステンパーウイルスによる感染は同じ咳でも死亡率が高いので注意が必要です。なんといっても病気にならないように予防注射をするのが第一です)

 

2.心臓性の咳
呼吸器に異常がなくても心臓に異常があると、同じような咳が出ます。犬の場合、むしろこの心臓性の咳の方が多いのです。
下記に詳しくお話し致します。

 

■僧帽弁閉鎖不全症
  • この病気は犬の心臓の弁が硬くなり、なめらかに閉じたり開いたりできなくなり、その結果全身の血液循環が悪くなってしまう病気です。丁度、灯油ポンプの弁の調子が悪くなった状態を考えてみて下さい。
  • 現在でもはっきりした原因はわかっていませんが5才以下の犬にはほとんど発生しないので、犬の老化と何か関係があるのかもしれません。
  • 咳は心臓に負担がかかるような時、例えば散歩等運動をした時、あるいは吠えたり興奮した時、さらに寝ていて血圧が下がっている状態の時に目立つのが特徴です。
  • この病気は中型犬以上の大きな犬に発生する事は少ないのですが、小型犬(トイ種)には多く発生し、また若い犬にはほとんど発生しないのですが、5〜6才を境に年齢の増加に伴い発生率も高くなってきます。

 

 

咳の出るメカニズムを説明致します。
僧帽弁閉鎖不全症になると心臓の弁(房室弁)の働きが悪くなり、全身の血液の循環(流れ)が悪くなります。
この状態を「うっ血」の状態と言いますが、特に肺の血液循環が悪くなり、「うっ血」状態になると脳の咳中枢を刺激して咳が出るのです。
残念ながら現在、この病気を予防する方法はありませんが、早期発見することにより症状を治したり、軽くしてあげる良いお薬があります。
逆に放っておくと、咳はひどくなっていくのはもちろんですが、肺だけでなく肝臓や腎臓の循環も悪くなっているので肝臓病や腎臓病を併発してしまう場合もあります。また、病気が進むとお腹に水が貯まってきてふくれてきたり、最悪の場合は呼吸困難や心不全を起こして死亡する事もあります。
この病気は病気の進行程度によりランク1(軽度)〜ランク6(重度)までに分けられています。一般に咳が出はじめるのはランク3〜4以上になってからです。
しかし、定期的な簡単な検査で(1年に1回の予防注射の時の聴診器による身体検査程度で)より早期であるランク1〜2くらいの時期に見つける事が可能です。飼い主さんも、予防注射の時等に獣医さんが聴診器で心音を聴診してくれた後、「うちの○○ちゃんの心音に異常(心臓の雑音)はなかったでしょうか?」と聞いてみると良いでしょう。

 

 

今月は(心臓病によって起こる)咳についてお話致しました。
早期発見は簡単な聴診で診断でき、また、近年良い薬もできたので症状や程度に合わせた治療を選択できるようになりました。咳をしたり、おかしいなと思ったら早めにかかりつけの先生に相談してみて下さい。
もの言えぬ動物達の場合飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの務めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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