第28回
【知って得する動物の病気の豆知識 その24】
「胃捻転(胃拡張・胃捻転症候群)」
今月は犬(主に大型犬)で時折見かけられる「胃捻転」という病気についてお話致します。

 

先日、私の病院で実際にあったお話しです。
ある休日の夕方、11才のラブラドール・レトリバーの飼い主さんから、「今、急にお腹が張ってきて、吐こうとするけれども吐けない様子なんですが……」というお電話が入りました。
お電話での症状は「胃捻転」の特徴的な症状なので、ただちに連れてきて頂くようにお願い致しました。飼い主さんのお宅は、私の病院から車で20分程度の距離にあり、病院に連れてみえるまでの20分という短時間の間に、みるみる胃にはガスがたまって、お腹がパンパンになっていました。

 

我々スタッフは、お電話を頂いて来院される20分間に手術の準備をし、ご来院と同時に病気について説明し、緊急手術を始めました。
大手術は無事終わり、なんとか一命を取りとめたものの、術後数日間は依然重体のままでとても心配にしましたが、徐々に体力を取り戻し、数日後、無事退院することができました。飼い主さんもとっても喜んでお帰りになられ、私達もほっと致しました。
犬の胃捻転は、このように突然発症し、文字通りお腹の中で胃がねじれ、又、それに伴い胃に分布する血管もねじれ、血流が遮断されてショック状態に陥り、放置すると数時間で死亡してしまうこともある、緊急を要する病気です。まるでキャンディーを包んでいる包みの両端のねじれのような感じです。

 


 

一般的にこの病気は、シェパード、ドーベルマン、セントバーナード、グレートテン、ボクサー、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー等大型犬に見られる病気ですが、それ程頻繁にある病気ではありません。
しかし、万が一なってしまった場合、一刻を争う緊急疾患の代表と言える病気です。しかも時間単位で死亡率もぐんぐん高くなってくる病気なので、大型犬を飼っている飼い主さんは注意が必要です。

 

 

■原因

 

胃捻転の原因は1つだけでなく、複数の要因が複雑に関係していると言われています。
その内のいくつかをあげてみます。

 

1.食事直後の散歩などはげしい運動
2.胃を支えている靭帯の伸び
3.食餌中のカルシウムとリンのアンバランス
4.胃下垂
5.脾臓(胃の横にある臓器で血液をためておく働きがある)の肥大
6.遺伝的素因

 

実際にこの病気になった犬の多くは、1日1食で1日分の食餌をまとめて与えられ、その直後運動したケースが多いのです。言い換えると、発病の2〜6時間前に大量の食餌を採取しているということが要因の1つとして注目されます。
したがって、飼い主さんとして注意すべきポイントとして一番重要なことは、散歩の前に食事を与えないということです。
胃に食べた物がたくさん入った状態で激しい運動をすると、重い胃が弾みで「グルッ」とねじれてしまう事があると言われているからです。
「食餌は散歩の後で!」と覚えておきましょう。
また、大型犬であっても食餌は2回(朝と晩)に分けて与えるようにしてあげた方が良いと考えます。
次に重要なことは、胃捻転を疑う症状が見られたら、様子を見ずに一刻も早く病院に連絡し、すぐ診察をしてもらうために連れて行くことです。
症状は、一般に食後1〜4時間以内に腹部が膨満し、吐きたくても吐けない状態が続きます。更に症状が進むと呼吸が荒くなり、血圧が下がり、ショック状態に陥り死に至ります。助かるか否かは一分一秒の差で決まると言っても過言ではありません。
特に大型犬の飼い主さんはこれらの症状を頭に入れておき、また、満腹で散歩されることのないように注意しておいて下さい。
※特に大型犬の老犬の場合、年齢を重ねるごとに胃を支える靭帯が伸びてきてしまっているケースでは、それ自体、胃捻転を起こしやすい要因(原因:2)なので、胃にそれ程食べた物が入っていなくても、胃捻転を起こすこともまれにあるので、ご注意下さい。

 

 

今月は、大型犬で時折見られる救急疾患の「胃捻転」についてお話し致しました。
飼い主さんのちょっとした注意である程度予防することができますので、今回のお便りが参考になったらと思います。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。

 

他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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