第31回
【知って得する動物の病気の豆知識 その27】
「迷信」
新年を迎え、気分も一新、本年も「動物病院だより」・「ペット相談室」にと、はりきって行きたいと思いますので、よろしくお願い致します。

 

さて、今月はちまたで言われている情報の中で迷信(?)と思われる事柄に少々、科学のメスを入れてみたいと思います。

 

 

■迷信その1:犬の鼻が乾いていると病気ってホント!?

 

これは正しい場合もありますが、間違っている場合もあります。わかりにくい答えですが、とにかく説明してみましょう。
犬や猫の鼻をぬらしているのは鼻表面の汗腺と鼻の穴の入り口近くにある分泌腺(外側鼻腺と鼻腺)です。
少し難しくなりますが、この分泌腺は「交感神経」という神経と「副交感神経」という神経の双方の神経の支配を受けています。この2種類の神経は相反する働きがあり、「交感神経」が働いている時は、鼻の分泌腺が活発になり、結果として鼻がぬれ、逆に「副交感神経」が働いている時は、鼻の分泌腺は抑制され、結果として鼻は乾きます。

 

それでは、どんな時に「交感神経」が働いて、逆にどんな時に「副交感神経」が働くのでしょうか?
「交感神経」は、言い換えると動的な神経で、運動時・興奮時あるいは緊張時に活発に働きます。一方「副交感神経」は静的な神経で、安静時・睡眠時あるいは食後、内臓が働いている時などに働いています。
従って、「交感神経」が働きやすい運動時・興奮時・緊張時などは「交感神経」の命令により鼻はぬれていることが多く、逆に「副交感神経」が働きやすい安静時(リラックスしている時)・睡眠時あるいは食後内臓が働いている時などは「副交感神経」の命令により鼻は乾く傾向があります。
従って、一日の中で感情の変化や運動の有無などにより、ぬれたり、乾いたりを繰り返しているのです。
ある瞬間をとらえて「鼻が乾いている!」と心配する必要はありません。ただし、1日中鼻が乾いていたり、元気や食欲が減退、あるいは熱っぽいような併発する症状がある場合は早めにかかりつけの先生の診察を受けて下さい。

 

 

■迷信その2:猫にイカを与えると腰が抜ける!?

 

これは昔から言われている事ですが、私が獣医師になって、獣医学的な見方をするようになって気づいた事です。この「猫にイカを与えると腰が抜ける」といった迷信は一概に間違いとは言い切れません。しかし、たった1回イカを与えたからと言って腰が抜ける訳ではありません。長い間ずっとイカばかり与え続けていると腰が抜けたようになってしまう事があるという意味です。なぜそうなってしまったかと言うと、イカの中には骨に必要な「カルシウム」が十分に含まれておらず、むしろ骨からカルシウムを奪ってしまう「リン」という成分が多く含まれているのです。
しかも猫は嗜好性が強く「これがおいしい!!」と思うとそればかり食べるようになり、結果的にイカばかり食べていると体に必要な「カルシウム」が不足し、“クル病”あるいは“骨粗鬆症”と呼ばれる骨が弱くなる病気になってしまいます。
この病気になると骨折しやすくなることはもちろんですが、特に成長期の子猫では骨の成長が抑制され、足を動かすために重要な脊髄神経を囲んでいる腰の骨(腰椎)の発達も悪くなり、その結果、脊髄神経が圧迫を受け、足・腰が麻痺して歩けなくなってしまう事があるのです。こういった状態を見て昔の人は「猫にイカを与えると腰が抜ける」と言ったのではないかと思われます。
また、この“クル病”はイカに限ったことではなく、エビ、肉、魚の身や猫マンマ等もカルシウムが不足しているので、そればかり与え続けると同じ事が起こる可能性があります。しかし、最近はキャットフードの普及に伴い、あまり、見られなくなってきました。

 

 

■迷信その3:犬や猫は傷をなめて治す!?

 

確かにだ液の中にはバイ菌をおさえる成分が入っています。
しかし、その効果はほんの微々たるものであるり、逆に炎症をひどくしたり、傷がふさがるのを遅らせてしまうのです。特に猫の舌はザラザラしており、傷がひどくなってしまいます。
犬や猫は傷があったり、痒かったりするとなめる事しかできず、結果的にたまたま治ったのを見て、昔の人は「犬や猫は傷をなめて治す!!」と言ったと考えられます。現代の人は、そんな時はすぐ動物病院に連れて行って、ちゃんと治してあげて下さい。動物達はしゃべる事ができないのですから。

 

 

今月は、いわゆる“迷信”と思われる事柄に私なりに科学のメス(?)を入れてみました。
今回お話し致しましたように昔から言い伝えられている事の中には正しい部分もないとは言えませんが、実際とは多少異なるものもあるようです。雑学の知識として多少皆さんのためになったでしょうか?

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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