第49回
【知って得する動物の病気の豆知識 その45】
「熱中症」
まだまだ暑い日が続いています。
そこで今月は、熱中症についてお話し致します。

 

ヒトでも、マラソン等の運動時や幼い子供の車内放置(短時間でも)等、熱中症を起こしてしまうケースが度々聞かれます。
汗をかいて体温調節をするヒトと比べて、汗をかけない動物たちは、更に熱中症にかかり易いと言っても過言ではありません。

 

熱中症とは、外気温や湿度の上昇、あるいは暑い中の散歩や吠え続ける等の興奮による動物自身の運動によって起こる体内での熱の産生により、体温が上昇し、体温調節がうまくできなくなってしまう状態を言います。更にその結果、体温は異常に上昇し、体の色々な臓器不全を起こし、命にかかわる状態に陥ってしまうことさえあります。
先日も、13才の柴犬が、元気に散歩に出かけたにもかかわらず、散歩中に急にフラフラと倒れてしまい、緊急で担ぎ込まれたケースや、単に、健康診断だけのために日中の暑い中、キャリーケースで連れてこられたウサギがキャリーケース内の急激な温度・湿度の上昇により、病院に着いた時には熱中症になりかけていた・・・etc、この季節には比較的よく遭遇する病気です。

 

 

それでは、熱中症になり易い条件を考えてみましょう。

 

【1】外気温の上昇
暑い時間帯の散歩は避けましょう。
特に、アスファルト化した近年、ヒトよりも熱い地面に近い所を歩く動物は、ヒトよりも3〜5度ほど高い温度の中で散歩していると考えてください。

 

【2】密閉された環境
車の中や来院時に入れてくるキャリーケース等の密閉された中は、予想以上に短時間のうちに温度・湿度ともに上昇し易いものです。長時間の密閉はもちろん、短時間だと思っても注意しましょう。暑い中の来院には、キャリーケースの中に保冷剤を入れる等の工夫が必要です。密閉された状態で湿度が上がると、それ程高くない温度でも熱中症が起き易いです。

 

【3】運動による体内での熱の産生
それ程までに暑いと感じない程度の気温でも、激しい運動をしたり、室内で吠え続けたりすると、体内で熱が産生され、熱中症になってしまうことがあります。お留守番の時に吠え続ける犬は、特に室温に注意して下さい。

 

【4】若齢・老齢の動物は特に注意
若齢や老齢の動物は、体温調節の能力が劣っていると考えられます。また、若い動物は活発で運動量も激しいので、その点でも注意が必要です。

 

【5】短頭種の犬は特に注意
短頭種は鼻孔が狭く、また、軟口蓋過長症という病気をはじめ、色々な(呼吸時の)空気の通りが悪くなる病気になり易いと言われています。犬をはじめ多くの動物たちは、ヒトのように汗をかくことによって体温調節をしているのではありません。犬はハーハーと呼吸することにより体温(約38.5度)に近い温かい空気を吐き出し、体温よりも少しでも低い温度の空気を体に取り入れることで主に体温調節をしています。したがって、外気温が高くなればなるほど、体温調節がしずらくなります。その点から考えると、短頭種をはじめ、空気の通りが悪くなる病気(軟口蓋過長症や気管虚脱等)を持っている個体は注意が必要です。

 

【6】僧帽弁閉鎖不全等の心臓病を持っている犬は注意
心臓に病気を持っている犬は全身の血液循環が悪く、特に肺の循環が悪くなり、肺に水分がたまってくる状態(肺水腫)に陥ってしまうと危険です。暑い環境で体温調節する為にハーハーしていると、肺水腫を誘発してしまうことがあります。

 

【7】肥満の動物は注意
四本肢で歩く動物の場合、肥満になるとお腹の中の内臓の脂肪が横隔膜を圧迫し、呼吸をしずらくしてしまいます。したがって、肥満の動物は体温調節をよりしずらいと考えて下さい。

 

 

■熱中症の症状
症状は、熱中症の程度により様々ですが、重要なことは、急に症状が現れるということです。
以下に、一般的な症状を示します。

 

・体が熱くなる(体温が41度以上にまであがってしまいます)
・呼吸が荒くなり、脈も速くなる
・急に足元がフラフラする
・よだれを出す
・眼がうつろになる
・嘔吐をする
・失神や痙攣を起こす

 

※以上を放っておくと、早い時期に死に至ることもある。

 

 

■治療
1)熱中症になってしまったら、まず第一に重要なことは、応急処置としてシャワーやホースで全身に水をたくさんかけて、体温を下げることにつとめましょう。柴犬のように密毛(アンダーコートが深い)場合は、一見、水で毛がぬれているように見えても、地肌にまで水が届かず、あまり体温が下がらないケースもあります。地肌まで十分に濡れるように、しっかりと水をかけてください。
2)応急処置をしながら、かかりつけの獣医師に連絡をとり、経過と現在の症状を伝え、指示をあおぎましょう。

 

 

今月は、熱中症についてお話し致しました。
まだまだ暑い日が続きます。熱中症にならないように、日頃いる環境に注意して、暑い時間帯の散歩はなるべく控えましょう。特に、若齢犬や老犬の場合、注意が必要です。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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