第55回
【知って得する動物の病気の豆知識 その51】
「チョコレート中毒」
2月14日はSt.バレンタインデーですね。手作りチョコを作ろうと思っている方もいらっしゃる事と思います。

 

ところが、動物の場合、チョコレートを摂取すると中毒を起こすことが知られています。注意すべき動物は犬です。猫をはじめ、その他の動物でも大量にチョコレートを摂取すれば、同様に中毒症状(後述)を起こす可能性はあると考えられていますが、猫では、チョコレート中毒を起こす例は極めて少ないとされています。おそらく、動物種によるチョコレートに対する感受性の違いや、食習慣の違いが発生の少ない理由ではないか?と言われています。

 

したがって、以下に述べる内容は犬に関してのものとなります。

 

 

【1】なぜ、チョコレートで中毒が起こるのでしょうか?

 

チョコレートの中には、犬にとって有害物質である「テオブロミン」という成分が入っています。
テオブロミンは、チョコレート、カカオ豆、カカオ豆の外皮、コーラ、茶に存在している物質で、特に、チョコレートやカカオ豆には含有率が高いのです。簡単に言うと、テオブロミンは、カフェインと親戚関係にある物質です。
カフェインはコーヒー等で有名な成分で、皆さんご存知だと思いますが、弱い興奮作用(私も昔、受験勉強時に眠気覚ましにコーヒーを飲んでいましたが…)や、利尿作用がありますね。テオブロミンにも、その作用の強さの違いはあれ、似たような作用があります。
以下に、カフェインとテオブロミンの作用とその強さの程度を表にしてみました。

 


 

以上のように、テオブロミンは、大脳興奮作用や呼吸興奮作用があり、中でも心悸亢進作用は非常に強いものがあります。犬の場合、カフェインを大量に摂取する機会はあまりありませんが、テオブロミンはチョコレートという形で(ちょっと目を離した隙に)摂取することが充分に考えられますので、飼い主さんとしては特に注意すべきと言えます。
もう一点重要なこととして、犬は人間や他の動物に比べて摂取したテオブロミンを代謝(解毒分解)する能力が非常に低いということです。犬では1度摂取したテオブロミンを分解排泄する能力は17.5時間でやっと50%(半減期)分解排泄すると言われています。逆説的に言うと、摂取してから約24時間が非常に危険な時間帯でもあるということです。

 

 

【2】チョコレート中毒の症状とは?

 

チョコレート(テオブロミン)中毒になった場合の症状は、嘔吐・下痢・興奮・抑うつ・不整脈・パンティング(ハーハーすること)・高体温・運動失調(フラフラすること)・ふるえ・痙攣・発作、時に死に至る昏睡等があげられています。

 

 

【3】どのくらいの量のチョコレートを食べると危ないのでしょうか?

 

チョコレートにもミルクチョコとかセミスウィートチョコ等、色々と種類があります。いずれにせよ、テオブロミンの量として考えた場合、10kgの犬で計算すると、テオブロミンとして500mg〜1000mgを摂取すると中毒症状をあらわします。また、2500mg〜5000mgを摂取した場合は、50%の確率で死亡してしまうというデータがあります(体重1kgの犬では同様の症状が10分の1のテオブロミン量で起こるということです)。
それでは、チョコレートの中にはどのくらいのテオブロミンの量が入っているのでしょうか? 先程お話し致しました様に、チョコレートの種類によって違いがあります。参考にしてみて下さい。

 


 

したがって、10kgの犬で計算すると、セミスウィートチョコレートをおよそ100g以上摂取した場合に中毒症状をあらわす可能性が出てきます。ミルクチョコレート等はミルクや砂糖を含んでいるために、セミスウィートチョコレートに比べてテオブロミン含有量はやや少な目になっています(表を参照のこと)。甘みの少ないチョコレートは、より注意が必要であると覚えておいてください。

 

 

【4】もし、チョコレートを食べてしまったら?

 

上記の表に示した量のチョコレートを食べてしまったと思われる時は、救急を要しますから、すぐにかかりつけの動物病院に連絡をし、催吐処置(吐かせること)をしてもらって下さい。解毒剤はありませんし、犬のテオブロミンの代謝機能は良くありませんので、とにかく、すみやかに吐かせることです。摂取してから時間が経過してしまうと、胃洗浄が必要となったり、最悪の場合、生命への危険を伴ってきます。

 

 

今月は、チョコレート中毒についてお話し致しました。
というのも、昨年は本院の患者さんのダックスくんが、バレンタイン用に用意したブロックのチョコをたいらげてしまうという事件がありました。早期発見してくれたおかげで、すぐ来院してもらい、催吐処置をすることができました。その時には、沢山のチョコレートが吐物として吐き出され、飼い主さんにチョコレート中毒のお話しをしたところ、チョコレート中毒について全く知らなかったので、びっくりしたのとホッとした気持ちで少々混乱していました。おかげで当人は何事もなかったようにケロッとしていて、またチョコレートを狙っていたそうです。
バレンタインデーのチョコレートは、愛する人にあげてください。決して、愛する犬には与えないでください。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でも、お気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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