第56回
【知って得する動物の病気の豆知識 その52】
犬パルボウイルス感染症及び猫伝染性腸炎
(猫パルボウイルス感染症)
今月は、犬及び猫の様々な伝染病の中で最も死亡率が高く、また強い伝染力を持つ伝染病の代表であります「犬パルボウイルス感染症」及び「猫伝染性腸炎(猫パルボウイルス感染症)」についてお話し致します。

 

後述しますように、原因は、犬の場合は犬パルボウイルス、猫の場合は猫パルボウイルスが感染することにより起こる病気です。
犬パルボウイルスは犬だけに感染し、猫には感染しませんし、逆に猫パルボウイルスは猫だけに感染し犬には感染しません(もちろんいずれも人間はじめ他の動物に感染することはありません)。
ただ、犬パルボウイルスも猫パルボウイルスもウイルスの分類上、大きな分類ではパルボウイルスに属しますので、症状(後述)や死亡率等は、犬パルボウイルス感染症も猫パルボウイルス感染症も、大変似かよったものとなっています。

 

 

■原因

 

犬は犬パルボウイルス、猫は猫パルボウイルスにより起こります。
パルボウイルスは、ウイルスの中でも極めて小さなウイルスで、直径が約20ナノメーター(1ナノメーターは100万分の1ミリメートルです)の球形に近い形をしています。
口から経口的に感染したウイルスは、腸の粘膜上皮や骨髄(あるいは胎児や新生児の場合、脳や心臓のことも)等の細胞分裂の盛んな細胞に侵入し、それらの細胞にダメージを与えてしまいます。
ウイルスは感染した動物の便や吐物に混ざり莫大な数が排出され、排出されたウイルスは自然界の中で数ヶ月もの長い期間、感染能力を持ち続け、次の感染の機会を待ちます。
この、自然界で数ヶ月も感染能力を持ち続ける事は、様々なウイルスの中でも最長と言えます。
このようにパルボウイルスは非常に小さく、非常に長い期間、感染能力を持続していると言う点が、このウイルスが強い伝染力を持っている1つの理由となります。

 

 

■症状

 


先程も述べました様に、このウイルスは細胞分裂の盛んな細胞(臓器)に好んで侵入します。
代表的な臓器は、腸、骨髄、更に胎児や新生児では脳や心臓です。したがって、飼い主さんが飼い始める生後2ヶ月以降では、主に腸や骨髄の細胞が、このウイルスのターゲットとなります。
一般的に良く見られる症状は「急激に発症する嘔吐あるいは下痢(時に血便の下痢)及び食欲や元気の廃絶」です。(重要)
これは、ウイルスによって腸が侵されていることにより起こります。
また、同時に骨髄もウイルスに侵されますので、血液検査で白血球数の顕著な減少が観察されます(白血球は骨髄で造られていますので)。胎児期や出生直後にウイルスに感染した場合は、突然の心臓麻痺(心筋症による急性心不全)で死亡する事もあります。

 

 

■診断

 

嘔吐や下痢及び食欲や元気の廃絶を起こす病気は、このパルボウイルス感染症以外にも沢山ありますので、パルボウイルス以外の病気の可能性の有無を調べる為に、色々な検査が必要なこともあります。
どんな検査が必要かは、その症状の具合や程度により獣医師が選択します。
パルボウイルス感染症であれば、色々な検査のうち血液検査における白血球数の減少及び糞便を用いた便中のパルボウイルスを検出するパルボウイルス抗原検査が特に重要な検査となります。

 

 

■治療

 

輸液(点滴)や抗生物質及びウイルスの増殖を抑えるためのインターフェロン等が治療の軸となります。
しかし、そのような治療も報われず死亡してしまうこともある病気です。(早い場合発症から1〜2日で死亡してしまうことさえあります) 
この病気は、一般に発症から数日〜1週間が1つの山となります。
言い換えると、もし治療が成功した場合回復の兆しがみえてくのが数日〜1週間ということです。

 

 

■予防

 

パルボウイルス感染症は、犬も猫もワクチンで予防できます。
現在のワクチンは混合ワクチンで、パルボウイルス感染症だけでなく、それ以外の恐ろしい伝染病の多くを予防してくれます。
いったん感染してしまってからでは治療が難しい病気ですので、やはり予防が一番です。 生涯にわたる定期的なワクチン接種が重要なのです。
又、仔犬や仔猫の場合、自分で作る免疫がまだ無いので、生後50日齢前後に初回のワクチン接種をし、その後さらに1〜2回の追加接種をすることにより、病気を予防するのに十分な免疫ができます。
言い換えると、その一連の複数回のワクチンシリーズが終了するまでは、十分な免疫がまだできておらず、又、まだ若い仔犬や仔猫は体力も無いので、一生のうちで最も注意すべき期間と言えます。
特に、ワクチンシリーズの終わっていない仔犬(仔猫)は、ワクチン未接種の犬(猫)との接触は絶対に避けるべきです。

 

 

今月は、犬及び猫のパルボウイルス感染症についてお話し致しました。

 

現在はちゃんとワクチンもあり、飼い主さんがちゃんと動物病院に連れて行ってあげてワクチンを接種しておいてあげれば、予防できる病気です。
しかし、犬のパルボウイルスの歴史は、他のウイルス病の歴史に比べてとても浅く、初めて発生したのは今からほんの25年程前のことなのです(ちょうど私が大学4年の頃だったと思います)。
突然変異で新しく発生したウイルスなので、当時は日本中いや世界中どの犬も一切免疫を持っていませんでした。
しかも、ウイルスの伝染力は強く、致死率も非常に高い病気なので、パニック状態で、本当に犬達がバタバタと亡くなっていった事を今でも覚えています。
それ程ものすごいパニックだった事を証明するかのように、当時犬用パルボワクチンは動物用ワクチンとしては異例の早さで開発、製品化されました。今では普通にあるワクチンですが、そのありがたさは当時のパニックを知っている者なら誰でも身にしみるほど良〜く感じています。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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