第59回
【知って得する動物の病気の豆知識 その55】
「細菌薬剤感受性検査」
今月は「細菌薬剤感受性検査」についてお話しいたします。

 

「細菌薬剤感受性検査」(以後感受性検査とします)とは、簡単に言うと、体に感染し病気(感染症)を起こしている原因細菌を採取・培養しその細菌の種類を調べると共にどの種類の抗生物質がその細菌に一番効果があるのかを調べる検査のことを言います(感染症を起こす病原体は、細菌以外にも、ウィルスや真菌、その他リケッチア・クラミジア、あるいは原虫等、様々な物がありますが、今月の感受性検査のお話に関しては細菌に限らせていただきます)。

 

この感受性検査は動物病院(獣医師)だけでなく、人間の病院(医師)でもよく行われている検査の一つです。
と言うのも、人も動物も数ある病気の中で細菌感染による病気は沢山あるからなのです。
例を挙げれば、傷の化膿、細菌性外耳炎・中耳炎、細菌性結膜炎、細菌性膀胱炎、細菌性腎盂腎炎、細菌性肺炎、細菌性腸炎、細菌性心内膜炎……etc。
又、例えば細菌性膀胱炎一つとっても膀胱炎を起こす可能性がある細菌には沢山の種類があります。
一方、細菌に対する薬の代表である抗生物質にも沢山の種類があります。抗生物質が効くためには、相手の細菌との相性が重要となります。
ある抗生物質がある細菌によく効く場合は「その細菌はその抗生物質に感受性がある」と言います。相性の悪い(感受性の無い)抗生物質をいくら続けて投薬しても全く効果は期待できません。

 

したがって、治療のために数ある抗生物質の中からどの抗生物質を選択するかは最高に重要なポイントとなります。
どの抗生物質を選択するかはそれぞれのケースや獣医師の考え方や経験によって違いはありますが、
A.経験により使用する抗生物質を選択する。
B.感受性検査を行い使用する抗生物質を選択する。

 

大きく分ければ上記の2つに分けられますが、それぞれに長所と短所があります。

 

Aの長所は、
(1)安価(検査代が掛からない)
(2)早い(検査結果が出るまでの時間的ロスが無い)
短所は、確実性がBに比べて低い(万が一感受性の無い抗生物質を選択してしまった場合、治療の費用や時間をロスするばかりでなく病気が悪化・進行してしまい、結果的に治療や回復が遠回りになってしまう事もあります)。
Bの長所・短所は逆で、長所は確実に効果がある抗生物質を治療の最初から選択・使用できる。結果的に早く治るケースが増える(治療に安心感が増加する)。
短所は、
(1)検査代が掛かる。
(2)検査結果がでるまで若干の時間的ロスがある。

 

私の動物病院でも、感受性検査はよく行われる検査です。
感受性検査を一番行っていると感じる病気は、外耳炎・中耳炎と膀胱炎だと言う印象があります。もちろん費用の掛かる事なので全てのケースに感受性検査をおこなう訳ではありません。病気の種類や状態によっては経験的に「おそらく効くだろう」と考えられる抗生物質を選択することもあります。感受性検査が必要な場合は飼い主さんに説明し了解を得てから行うようにしています。

 

治りにくい外耳炎・中耳炎や膀胱炎の中には今まで感受性検査は行われておらず経験的な抗生物質をただ漫然と投薬され続けているケースがかなりあると考えられます。
私の個人的な見解ですが、初め(初診時)から感受性検査をし、確実な抗生物質を選択した方が良いと考えるケースとして、
【1】今まで抗生物質を投薬されていたにもかかわらず病状の改善がないケース。
【2】重大な感染症の場合(まず感受性検査をおこない、検査結果がでるまではとりあえずの経験的な抗生物質を投薬しておき検査結果が出た時点で結果に基ずく確実に効く抗生物質に変更する)。

現実的には、細菌性外耳炎・中耳炎が治療しているにもかかわらず治らなく複数の動物病院を転々としているようなケースでは感受性検査をしてみると多くの抗生物質が効かない強い細菌(多剤耐性菌)に変異してしまっているケースが多いのです。
人間の病院でも大きな問題となっているMRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)やVRSA(バンコマイシン耐性ブドウ球菌)などはその最たる耐性菌と言えるでしょう。

 

いずれにしても、早期のうちにしっかりと治すことが重要で慢性化させないことです。そのために役に立つ検査の一つがこの感受性検査だと考えて頂ければ良いと思います。

 

 

今月は「細菌薬剤感受性検査」についてお話し致しました。
医療も動物医療も細菌感染症に対しては抗生物質を治療のかなめとしていますが、先程述べたMRSAやVRSAに代表されるような多剤耐性菌が次々と変異して出現してきます。一方、薬剤メーカーも様々な研究の中から新しい抗生物質を開発し続けています。言い換えると「抗生物質と細菌のイタチゴッコ」と言うところです。
色々な細菌が存在するなかで、適切な抗生物質を選択するための検査が「細菌薬剤感受性検査」です。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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