かりん

 

2015年9月15日の朝、負傷動物出動要請の電話を受け、保護した仔猫が病院にやって来ました。
生後5~6ヵ月ほどの仔猫はどうやら交通事故に遭い、動くことも出来なくなっているようでした。

仔猫を診察すると、両後肢の大腿骨及び骨盤の数か所が骨折していました。
さらに、胸とお腹を隔てている横隔膜が破れ、胃や腸などの内臓が胸腔内に入ってしまい、肺が圧迫され呼吸が苦しくなってしまう「横隔膜ヘルニア」になっていることが分かり、すぐに手術しなければ命の危険がある、とても重篤な状態でした。

助からない危険もある中、仔猫の命を救うために二度に渡っての大手術を行い、仔猫は無事に危険な状態を乗り越えてくれました。
しかし、すでに5~6ヵ月まで成長している野良猫の場合、人に対しての警戒心が強く、この仔猫も近づこうとすると威嚇する様子から、今後人に慣れることは難しいだろうと、治ったら自然に戻すことを前提として考えていました。

骨折した両後肢は完治しても後遺症が残ることも考えられ、里親を探すにしても、この仔猫の月齢や怪我の状況からすると難しいと思われました。
仔猫の今後を考えると、出来ることなら病院の子としてお世話して行きたいとも思うのですが、人に対してどうしても心を許してくれない場合、自然に戻すことも仕方がないことだと分かっていました。
そうだとしても交通事故などの危険と隣り合わせの厳しい環境の中で再び生活するのはとても可哀想なことだと思い、少しでも人に慣れる可能性があるのなら出来る限りのことをしてあげたいと思いました。

保護してから数日間の仔猫の様子を見ていると、怖がって威嚇はするものの攻撃的な仕草はなく、この仔猫は全くお世話出来ないような性格ではないように感じられました。
ところが術後の診察や処置を行う内に、威嚇の仕草も激しくなり、手を出して攻撃するようになってしまいました。
こうした恐怖心から攻撃的な性格に変わってしまうこともあるため、やはりある程度成長した野良猫を慣らすことは難しいように思われました。

それでも希望を捨てず、仔猫が少しでも安心できる場所を作るため、ケージ内に段ボールで作ったお部屋を置いたり、人や手への恐怖心を無くすため、直接手からフードを与えるようにしたりと、仔猫を怖がらせないような工夫をしました。

そうしてゆっくりと向き合って接して行く内に、人が部屋にいても体を寛がせて毛づくろいをして眠ったり、手からフードを食べたりと、仔猫も徐々にこの環境に慣れ、こちらを信頼し始めているようでした。

保護した当初は自然に戻すことを考えていた院長も、仔猫の変化を見て徐々に気持ちが変わり、最終的に「病院の仲間に迎えよう」と決断しました。

こうして仔猫は「かりん」と名付けられ、マスダ動物病院の大切な仲間として、皆と一緒に暮らしていくことになりました。

かりんちゃんが病院の仲間になるまでの詳しいお話は、「マスダ動物病院エピソード」に載っていますので、そちらも是非ご覧くださいね。


病院の仲間に迎え入れられ、手からフードを食べることにも慣れてきてくれたかりんちゃんでしたが、体に触ることは出来ずにいました。
全く触れない状況では十分にお世話することもままならないので、少しずつ人に慣らしていく日々が続いていました。

そんな中でも横隔膜ヘルニアと骨折のどちらの術後の経過も順調で、このまま治れば日常生活を送るには問題ないほどに回復してくれそうでした。
徐々に傷が癒えて動けるようになって来たことで、かりんちゃんの緊張も和らいだように思えました。

日を追うごとに手に対する恐怖心も薄れているようでしたが、それでも直接触ろうとすると怯えてしまうため、今度は怖がらせないように直接触るのではなく、猫じゃらしを使って顔を撫でてみたり、猫ちゃん同士の挨拶の習性を利用しながら焦らずゆっくりと慣らして行くことにしました。

数日が経つと、猫じゃらしで顔を撫でてあげると気持ち良さそうに身をゆだねてくれるようになり、触られることが怖いことではないと分かったのか、かりんちゃんも受け入れようという姿勢が伺え始めました。

こうして一歩一歩段階を踏みながら慣らしていくと、コロンと寝転がって甘える姿も時折見られ、仔猫らしく猫じゃらしにじゃれて遊んだり、直接手で撫でられるようにもなり、かりんちゃんとの絆が深まって行くのを感じられました。

そして保護して1ヵ月半ほど経った頃には、膝の上で抱っこすることも出来るようになりました。
抱っこが出来るようになってからは、それまでなかなか触ることが出来なかったことが嘘だったかのように、日に日に緊張が解けていき、仔猫らしい可愛らしい表情を見せて甘えてくれるようになりました。

かりんちゃんのように、ある程度成長してから保護された場合、人に慣れず飼うことが困難なケースもあります。
保護した当時は人を信頼出来ず、警戒心をむき出しにしていたかりんちゃんが、人との関わりを知り、信頼関係を築けたことで、これから一緒に暮らしていくのに問題ないと感じられるほど慣れ、“病院の仲間”としての新たな一歩を歩き始めてくれたことを本当に嬉しく思いました。


かりんちゃんが病院の仲間になり3ヶ月が経つ頃には、爪切りやお手、おかわりといった日常生活に必要なお世話やコミュニケーションも出来るようになりました。
特設サークルのお部屋や休憩室などの色々な環境にも慣れ、先輩猫の愛花ちゃんや先輩犬のココアとも馴染んでくれました。

その子の性格によっては初めての環境などに直面した時、パニックになって暴れたり、攻撃的になってしまうこともありますが、かりんちゃんは緊張してもそうなることはなく、様々な人や動物に対しても穏やかに接することが出来るようでした。

1年が経った頃には、ココアと一緒に静岡市獣医師会が行っている『ひだまり倶楽部』の動物ふれあい活動にも参加しました。

先輩猫の愛花ちゃんとは姉妹のような関係で、愛花ちゃんには生まれつき足に先天性の障害がありますが、かりんちゃんもそれを分かっているのか、お互い無理のない範囲で遊び、ケンカすることもなく程よい距離感で過ごしていました。

その後、愛花ちゃんが2階の院長の自宅で過ごすことになるまでは、休憩室で一緒に過ごし、のんびりとした日々を送りました。

かりんちゃんが病院の仲間になって6年が経った今では、野良猫だった面影もすっかりなくなり、膝の上で撫でてもらうのが大好きな甘えん坊さんへと成長しました。

スタッフと過ごす時には撫でて欲しいと催促したり、お気に入りのハンモックでリラックスして寝ていたりと穏やかな日々を過ごしています。
そして手術した当初に考えられていた後遺症が残ることもなく、休憩室では猫じゃらしを追いかけ、元気いっぱいに走り回っていることを嬉しく思っています。

交通事故に遭い、助からない危険がある中、二度の大手術を乗り越え、人への恐怖心を克服して人が大好きになったかりんちゃん。これからの毎日も穏やかにのんびりとしあわせな日々を過ごしていって欲しいと思います。

「優しくて甘え上手なかりんちゃん、大好きだよ♡ これからも一緒に楽しい時間を過ごしていこうね♪」


かりんちゃんが病院の仲間になってからの詳しいお話は、ブログに掲載していますので、そちらも是非ご覧くださいね。

担当 丸澤彩香

 

 

 

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