マスダ動物病院のエピソード
天使になったジャス
Aさんのお宅では、今年7月7日にとても可愛がっていらした、11歳になるラブラドールレトリバーのジャス君とお別れをされました。

既にジャス君への思いを当サイトのブログで綴ってくださいましたが、出会いからお別れするまでの11年間のジャス君との大切な思い出を改めて綴って下さいましたので、こちらのエピソードにも掲載させて頂きたいと思います。

ジャス君への思いが込められたお話を、是非ご覧頂けたらと思います。
尚、これまでのジャス君に関するブログ記事は、以下の各タイトルからもご覧頂けます。
★<ジャス兄ちゃんと一緒♪>
★溢れるジャス君への思い ・・・ 愛犬ジャス君とのお別れ
★ジャスの想い出がたくさんで書ききれない私
★Aさんの思いがジャス君に届きますように・・・♡

 

天使になったジャス

 

ジャスは、まだ2ヶ月の時に佐藤家の家族になったね。
ジャスが家に来るまで、何回か会いに、焼津にあるジャスが産まれた所に行きました。
ジャスは兄弟の中でも1番大きくて太っていた子でした。ジャスを呼んでも他の子達は尻尾を振って走って来たけれど、ジャスだけは後ろの方でぼてっと座り、横目でこっちを見ていたね。

家に来てから、家の中では、必ず新聞紙の上でおしっこもうんちもしました。
私があっちこっち動く度に、一生懸命追いかけてくるジャスをよく覚えています。必ず誰かがそばにいないとご飯も食べなければ、自分のゲージの中で大人しくもしていられない子でした。

散歩に行くようになり、母と私とジャスとの3人で行く時は、母が遅れを取ったり、私がコンビニに行って少しジャスから離れる度に、必死になって、母や私を探していたね。
母や私が曲がり角を曲がって姿が見えなくなると、それまでは下を向いたまま歩いていたのに、急に頭をしっかり上げて、思い切り走りながら追いかけて来たね。
今でも、そんなジャスを愛おしく思います。

ある日のことです。母とジャスとで散歩に出掛けた時、ジャスは野良猫に夢中! ラブラドールのジャス君に引っ張られた母は、転んでしまいました。
その時リードも離してしまいましたが、ジャスは駆け出すこともせず「どうしたの? 大丈夫?」と言いたそうな表情で、母の顔を覗き込んだそうです。帰宅後の母の話を聞いて、その時の心配そうに覗き込んでくるジャスの姿が、ありありと目に浮かびました。

元々食べることが大好きなジャスは、散歩中でも頻繁に食べ物はないかと下を向いていて、そうなると、なかなか顔を上げようとしませんでした。
しかし、食べることと同じくらいに何でも咥えることが大好きなジャスだったので、自分のお散歩袋を咥えたり、遂には自分の食器を咥えて散歩に行くようになりました。結果、拾い食いもしなくなり……と言うよりは、出来なくなりました。

散歩に行く時はもちろん、病院に行く時も、安倍川まで行く時も、家の中を歩く時も走り回る時も、必ず食器だけは咥えていたジャス。
その姿が珍しいからか、食器を咥えながら散歩するジャスを覚えている人も少なくないみたいです。
「食器を咥えて歩いてたラブラドールの子は?」と、今でも時々、見ず知らずのおじさんやおばさんに声を掛けられます。

たまに関節をおかしくしてしまって歩き辛そうな日もあったジャスですが、お散歩の長さやスピードを変えると、いつの間にか治っていました。
だから、去年の10月頃、ほんの少し足を引きずって歩くジャスを、あまり気に留めていませんでした。またいつもの事だから、すぐに良くなるだろうと思っていました。
けれど、12月頃になってもジャスの足は治らず、いつも通っていた病院へ、母と3人で行きました(この時もジャスは、いつものように食器を咥えていましたね)。

「先生、何となく右の肩が腫れてる気がするのですが……」
「じゃあレントゲン撮りましょう! 夕方まで預かります」
「でも、もうすぐ11才になるので、麻酔とかは使って欲しくないんです」
私がそう言ったら、先生は「使いません。どうしても暴れてしまう様でしたら、また連絡しますね」と言ってくれました。
先生の言葉を聞いて安心したので、
「じゃあジャス! また後で来るから、良い子にしてるんだよ~!」と言って、私は先生にジャスのリードを預けました。
ジャスは、先生の持つリードを力一杯引っ張り、先生も一生懸命リードを握ってくれましたが、それ以上にジャスは必死になって私達の後を追いかけようとしていました。
ジャス、あの時、一緒に帰ろうって言ってあげていれば良かったよね。本当にごめんね。

4時頃になり、ジャスを迎えに歩いて行きました。
病院の中、ジャスも私達の声が聞こえているはずなのに、いつもだったらクンクン鳴くジャスの声が聞こえませんでした。
おかしいな……そう思ったので、ジャスがどこにいるのか先生に尋ねたら、「あらあら疲れちゃったのかな?」と、奥のドアを開けて、リードを持ちながらジャスを連れて来てくれました。
ジャスの尻尾の位置は低くて、その尻尾を、ジャスは元気なさそうに振っていました。いつもは足を滑らせながら走って来るのに、私たちの2メートル位先で、斜め下を向いて佇んでいるだけでした。

先生が言うには、ジャスはとても大人しくて良い子にしていたようで、レントゲンも綺麗に撮れたそうです。そして「レントゲンには白い塊等の異常は見えません」とのことでした。
私は、「緊張して疲れちゃったみたいだからお家に帰ろうか」とリードを引っ張りましたが、なかなか一歩が出なかったジャス。階段も一歩一歩、時間をかけて降りました。
家まで5分~10分で着くほど近い場所でしたが、15分かけても30分かけても、半分の距離も進めませんでした。
私は、早くジャスを連れ帰り、ゆっくりさせてあげたいと思ったので、母にジャスを見てもらい、家まで走って帰り、車で迎えに行きました。
ジャスは車に乗るのも大変そうでした。家に着いたのはいいけれど、今度は車から降りられません。
食いしん坊だから、ジャスの1番好きなおやつで釣って車から降ろそうとしましたが、食べようとしませんでした。
ジャス自身、何度も降りようとしていたけれど、怖がってなかなか降りられませんでした。
兄を呼び、低い台を持って来てもらい、ジャスはやっと車から降りることが出来ました。
家の中に入ったジャスは横になり、その日は動けませんでした。
食べたくない、何処かが痛くて動けない……そんな姿でした。

夜に父が帰って来た時、一通り1日の出来事を話しました。
父が、「ジャス君大変だったなぁ」と言いながらジャスのあばら辺りをさすったら、ジャスは突然、初めて本気で父を噛みました。
ジャスのからだをよく見たら、右前脚の先の方からあばら辺りまで、血が溜まっていました。
凄く痛かったんだよね、ジャス。辛かったね。あれ程一緒に帰りたがっていたのに、連れて帰ってあげれば良かったね。

それから、そこの病院にはもう行かない事にしました。知り合いの人に聞いたり口コミ情報を見て、マスダ動物病院に行くようになりました。
その病院は、お姉さん好きなジャスにとって、夢の様な病院でした。
増田先生の所に通う時には血も引いていて、いつものジャスに戻りつつありました。とは言え、以前の病院でジャスに嫌な思いをさせてしまったので、ここの先生は大丈夫なのか、少し疑いつつの通院でした(増田先生ごめんなさい)。
増田先生はわかり易く、納得出来る説明で、いろいろお話をして下さいました。

肩が段々と大きくなっていくのが分かったので、一度少しだけ細胞をとってもらい検査に出して頂きました。
嫌な予感は的中してしまいました。
癌。しかも進行が早い。
日に日に大きくなってく癌は、素人の私達が見てもわかりました。

ジャスの右脚を全部切るか切らないかの選択はありましたが、ご飯やオヤツを食べる時に、一生懸命右脚で「ちょうだい」をしてくるジャス。切断なんて出来ません。しっかり動くのです……。
近所のワンコで脚を切断した子を覚えていて、その子の場合は癌の進行は止まらなかったのも覚えていました。だから尚更、この子の脚を取る事なんて出来ませんでした。

だんだん成長するジャスの癌。だんだん散歩のスピードが遅くなるジャス。
それでも、ジャスは「もっと歩けるよ」と言いたいのか、遠くへと行きたがりました。
けれど、散歩をしていると、立ち止まる時間が増えていく。そして、だんだん脚の形が変形していき、だんだん家の周りだけで十分になっていきました。
まだ外にいたいとアピールしてくるジャス。その一方で、玄関から降りるのも大変になっていくジャス。そんな時は、2人がかりで、ジャスをサポートして降ろしました。
外にいるジャスの弟、ぶるの方を向きながら、ポカポカの太陽の下で寝るのが、ジャスにとっての楽しみになりました。
けれど、起きた後、立ち上がるのも大変になっていき、30分以上かけて、室内にあるジャスのお気に入りのベッドへたどり着くこともしばしばありました。
立ち上がれない日、自力で外に出られる日。自力で外に出られても、寝て起きた時、脚で一生懸命もがいても立ちあがれない日もありました。そうすると、兄がジャスをお姫様抱っこして、ジャスのベッドへと連れていきます。

「お姉ちゃんの隣においで、ジャス」
ジャスが癌になってから、よく私の布団の上に乗って来て、一緒に寝ました。私が仕事に行ってる間も、ジャスは布団が好きでした。
ジャスが寝たきりになる何日か前からは、ジャスは、私の布団と隣の部屋にいる兄のベッドとを、夜中に交互に行き来していました。
私が寝てから兄のベッドへ行き、朝方にはまた私の布団に戻ってくる。
だから、私の布団の横に、ジャスの好きなふわふわで大きめの布団を敷きました。
そこまで、また兄にお姫様抱っこをしてもらうジャス。でも自分で立とうと、脚を一生懸命動かしているジャス。
私は、ジャスのお尻に付けたサポーターと胸の辺りを持ちながら、ジャスを支えました。
「ジャス、そっちはお姉ちゃんの布団だから行っちゃダメだよ。ジャスのはこっち」

ある日から、ジャスはサポーターを使っても立ち上がれなくなってしまいました。
子犬の時以来、一度も家の中ではおしっこもうんちもしなかったジャス。だからか、布団の上にシートを敷いてあってもなかなかしようとしません。でも、お腹辺りを押さえたらすぐに出ました。
ジャスが我慢していたのがわかったから、私は「ジャスおしっこ出たねぇ! えらいねぇ!」と思い切り褒めてあげました。すると、だんだんと布団の上でもしっかりとしてくれるようになりました。

時々、ジャスはあまり力の入っていない、甘えた声で鳴きました。向きを変えたい時、触ると痛い時……。
そして、ジャスはとうとう、ご飯を食べようとしなくなりました。
ジャスの大好きなリンゴは? お気に入りのパンなら食べるかな? 大好きなソーセージにしようか?
なんでもいいから、食べて欲しかった。
不味いのかな? 食欲が無いだけかな? お腹空かないの? あんなに食いしん坊だったのに。

すぐに増田先生に相談し、栄養たっぷりの美味しそうな匂いのするご飯を頂きました。
注射器みたいな物で吸い、ジャスの口に運ぶ。モグモグ、ゴクン。
「ジャス君食べたねぇ! えらいねぇ!」けれど、またすぐに食べなくなりました。
2日かけて、まだ少し残っていたけれど、頂いた1缶を終わらせました。
コレなら食べてくれる。そう思い、増田先生のところへ行きもう2缶頂きました。

次の日、ジャスは頂いた2缶の内の1缶を空けました。
「すごいじゃないジャス君! 本当にえらい! 1回の食事で1缶近く食べた!」
私は、いっぱいいっぱい、ジャスを褒めました。
「今日はお父さんが家にいるから嬉しくて食べたのかな? お水も沢山飲んだね! えらい子だねえ! 食べてくれてありがとね、ジャス君!」
その日、ジャスは絶好調でした。
「おっ! おしっことうんちも出たぁ~!」
排泄も済んだから、私はジャスを父に任せて、母と買い物へ。
なんと私、結婚するんです。アメリカに行く事になっていたので、大きなスーツケースを見に行きました。

「ジャスただいまー!」
帰宅後、ジャスに声をかけ、母と夕食の支度を始めました。
ウヮンッ! ウヮンッ! ジャスが鳴いている。
「ジャスどうしたの?」
姿勢は、さっき兄に変えてもらったばかり。じゃあ、水が飲みたいのかな?
注射器を用意してジャスの口に持っていくけれど、ジャスは飲もうとしません。
「どうしたの? 寂しかったの?」
ジャスの口がパクパクしてる……苦しい? ジャスの手が痙攣していました。

「ジャス? ジャス!」
父が、何度も声をかけながら、ジャスの頭を撫でました。
「お母さん! ジャスの様子がおかしい! 先生に電話して!」
そう言ったのと同時に、ジャスが、おしっことうんちを出した。

あ、取らなきゃ。踏ん張っていたのかな?
そう考えている間に、ジャスは息を引き取りました。

「ジャス! ジャス君!」
父と母が、ジャスの名前を大きな声で呼びました。
その傍らで、私はただただ、ジャスを眺めて泣くことしか出来ませんでした。
父も母も「ジャス、ありがとうね」と言っていたけれど、私だけ、言葉に出来ませんでした。

ジャス、最期苦しかったよね? 部屋が暑かった? 水をあげたから? 死ぬって分かっていたから私を呼んだの?
安心させようとして、ご飯もほとんど食べてくれたのかな? もしかして、スーツケースを買って来たから?! 私が外国に行くって分かっていたから?
私は言葉には出せなかったけれど、いろんなことを、考えていました。

ジャス、あなたがうちに来てくれて、本当に楽しかったよ。嬉しかったよ。
七夕の日に、ジャスは天使になりました。もう2ヵ月経とうとしているのに、やっぱりジャスは大きな存在です。
今もこれからも、ずっと家族のまま。ジャスのお陰で、後ろ髪引かれることなく、アメリカに来れました。
しっかりと介護もさせてくれたジャス。可愛い可愛いジャス君、大好きだよ。いつまでも見守っててね。



 

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