マスダ動物病院のエピソード
ルイちゃんとのお別れ
2019年の12月から数回に亘って、ルイちゃんとの出会いから15歳になるまでの13年間のお話を、ブログの方にアップさせて頂きました。

「ルイちゃんと共に過ごした年月は、私達にとって優しさに溢れた本当に大切なものとなりました。いつまでも、この優しさに溢れた時間が続いてくれたらいいのですが、無情にもその時はやって来たのです。」

ブログの最後に書かせて頂いたこの言葉の通り、私達にとって何より大切なルイちゃんとの時間にも終わりがやって来ました。その時のことを、病院で配布しております「マスダ動物病院だより」に書いたことがありました。

今回このエピソードに、そのおたよりをそのまま載せさせて頂きますので、是非ご覧頂けたらと思います。





愛犬ルイちゃんとのお別れから・・・

ルイちゃんとのお別れから、あっという間にふた月が経ちました。おたよりやブログでお伝えした後、お花を頂いたり、優しいお声を掛けて下さいまして、本当にありがとうございました。

15歳と高齢ながらもそれなりに元気に暮らしておりましたので、まさかこんなに急にお別れが来るとは思いもよらず、突然のお別れを受け止めることはとても大変なことでした。
それでも最後まで頑張り続けてくれたルイちゃんとのお別れを、悔いの残るものにはしたくないという思いから精一杯関わり、最後はみんなと一緒に笑顔で見送ることが出来ました。

皆さんにもいつかは訪れる大切な家族の一員である動物とのお別れの時、悔いが残らないようにするために、私がお話させて頂くことで何かひとつでもお役に立つことが出来ればと思い、今月はルイちゃんとお別れした時のことをお話させて頂きたいと思います。


7月9日に、トイ・プードルのルイちゃんとお別れをしました。

今までに何匹もの動物たちとのお別れを経験して来ましたが、今回もまたいっぱい涙してしまいました。
悔いが残っているからではありません。こんなにやさしく愛おしい子とのお別れが、ただただ淋しく悲しい思いからの涙でした。

ルイちゃんと一緒にお散歩したり、ボランティアに参加したり、一度だけでしたが旅行にも行ったり、いい思い出がいっぱいあります。本当に楽しかったなあ♪

13年前、当時2歳だったルイちゃんは、お弁当に入っていたホタテのフライを串ごと食べてしまい、病院に連れられやって来ました。しかし飼い主さんの事情で手術も出来ない、これ以上お世話が出来ないというので、何度も何度も話し合った結果、最終的に我が家の子として迎え入れることとなりました。

ルイちゃんは限りなく優しく、沢山の人の心を癒し、まるで天使の様な、愛に溢れたワンちゃんでした。だから穏やかに、しあわせな思いに包まれながら、静かに最期を迎えさせてあげたいとずっと思って来ました。

今年の2月に15歳のお誕生日を迎えたルイちゃんは、昨年辺りから白内障が進行し、暗がりではほとんど見えず、耳もほとんど聞こえていないような状態でした。
ボランティア活動に張り切って参加し、活動が続けられるくらい元気ではありましたが、高齢になったルイちゃんとあとどのくらい一緒にいられるのだろうと考えることも少なくはありませんでした。

そうして迎えた7月6日、ルイちゃんは朝からいつもより咳が出ていて、少し気になりました。お昼頃から更に咳が酷くなり、とうとうその晩には横になってしまいました。前日までは普通に歩いて、普通に食べて飲んでいたのに・・・。

遡ること4年ほど前辺りから、ルイちゃんは時々咳をするようになり、これまでにも咳が少し長めに続くとフラッと倒れそうになることがありました。
しかし何回かのレントゲン検査と血液検査でこれといった異常が認められないということで、お薬を飲ませながら経過観察をすることになりました。

今年も1月と4月に検査をしていたのですが、結果は同じでした。そして、7月6日の数日前からはいつもより咳が多めで気になってはいたのですが、まさかこんなに早く急変するとは誰も思っていませんでした。

あまりの変化にこのまま逝ってしまうかもしれないと不安が募り、この日から私は自分のお布団をルイちゃんのケージの前に敷き、扉を開けて一緒に寝ることにしました。

その頃のルイちゃんは既に立ち上がってももう手足に力が入らないのか、身体を上手くコントロール出来ず、ぼーっと立ったままで、自分で体勢を整え横になるということが出来ませんでした。

一度横になっても、時々ケージの中で急に立ち上がるので、動いた時にも分かる様に、ずっと手を握り続けていました。

夜中の3時頃、とても呼吸が荒く苦しそうでしたが、なんとか朝を迎えられてほっとしました。それが7月7日の朝でした。

しかし、いつもの状態とは程遠く、美味しいものには目が無いルイちゃんが、全く食べようとしません。こんな時、食べてくれないのが一番堪えます。
食器から食べるのは無理だと分かったので、シリンジ(注射器)で少しずつ口の端から入れることにしました。すると最初は食べるのですがすぐに嫌がり、嫌がるのを何とか食べさせようとすると呼吸が苦しくなってしまうのです。
それでもこの時はまだ「少しずつ回数を分けてあげれば大丈夫、なんとか頑張ろう」と思っていました。

その後、ルイちゃんは横になっていましたが、少し楽になったのか、夜の7時頃にはまだ表情もあり、かすかに視力の残った左目で私の動きを追う姿を見て、「絶対に諦めない」そう思いました。

少し安心したのも束の間、夜中の12時過ぎにまた苦しそうに開口呼吸に戻ってしまいました。そしてこの時点で抱き上げると身体に力が入らず、最期の時が迫っているかもしれない現実に愕然としました。

これまでにも愛情を注いで接しては来ましたが、あまりに急だったので、「私はまだルイちゃんがしてくれた数々のことへのお返しが出来ていない。このまま死なせてしまったら、私は本当に後悔してしまう。とてもお別れなんて出来ない。」と涙が止まらず、辛くて仕方がありませんでした。

何か治療の方法があればと思うのですが、この時に出来ることはもう無い状態でしたので、どうしたらいいのかと途方に暮れながら、私はぽつりぽつりとルイちゃんに向かって語り掛け始めました。

夜中の4時過ぎ、しんと静まり返った部屋の中、薄暗い灯りの下で一緒のお布団に並んで横になり、ルイちゃんの目をじっと見つめ身体を優しく撫でながら、ルイちゃんが我が家にやって来たその日から起こった出来事をひとつずつ思い返しては、ゆっくりと話を続けました。

楽しかった出来事、嬉しかった事、ありがとうの思いなど・・。また「ルイちゃんがこれからどんな大変な状況になっても、お世話はちゃんとさせてもらうからね。どんな風になっても、生きてさえいてくれればいいからね。」・・・と。

するとルイちゃんは見えない目で私を真っ直ぐに見つめ、遠くなった耳でしっかりと聞いているかの様に感じられました。
あんなに小刻みに刻んでいた呼吸が、気がつけば口を閉じ、落ち着いた呼吸になっていました。

それまでは辛い気持ちでいっぱいの私でしたが、この時は穏やかな気持ちで思いを伝えることが出来ました。
ルイちゃんと私だけの、それはそれはとても優しく素晴らしい時間となりました。

ルイちゃんに私の思いが全部伝わっている様な気がしました。悲しみの中にありながらも、最後の最後にこんなにステキな時間を迎えることが出来て、本当にしあわせでした。
そして、あとは自分の出来る限りのことをやるだけだと思いました。

7月8日。3日目の朝がやって来ました。

この日もご飯をあげようとしたのですが、シリンジをそっと差し込んでも急に飛び起き、呼吸が荒くなってしまいました。しかも舌を動かして飲み込む動作も難しそうで、抱き上げてお水を飲ませようとすると前日より更に身体に力が入らず不安定になり、また呼吸を大変にさせてしまうといった感じでした。

介護をしていていつも思うことは、うんち・おしっこが普通に出来て、ご飯を食べてお水が飲めることは、本当に有難くて嬉しいことだということです。それらは当たり前のことの様で、決して当たり前ではないといつも感じています。

それでも様子を見ていると、丁度お昼の支度をする頃には、なんだか呼吸が落ち着いているように見えました。そしてその2時間後、ルイちゃんは私達に最後に奇跡を見せてくれたのです。

主人にオムツを換えてもらった後、それまでずっと横になったままだったルイちゃんが急に立ち上がり、なんとテクテクとリビングの中を歩き始めたのです。

“えええ~~~???”しかも端から端へと向かって歩き続け、歩くルイちゃんのそばにハ~ト君が近寄って・・・。ハ~ト君は久しぶりにルイちゃんと一緒に歩きたかったのかな?

そして、更に奇跡は続きます。夜6時頃、一時とても呼吸が大変そうになり、もうそこでも「ああダメかも」と思ったのですが、それから30分後またパッと起きあがり、今度はキッチンに向かって歩いて行ったのです。

よくキッチンに立つ私の後ろで、ハ~ト君と一緒に“何か落ちて来ないかな~”と、ずっ~と静かに立って待っていたルイちゃん。
その姿がもう二度と見られないと淋しく思っていたのですが、こうして最後に歩く姿を見せてくれたのです。もう嬉しくって・・・。

これは私にとっては奇跡であり、最高のプレゼントでした。

そしてその夜、ずっと距離を置いて離れた位置にいたハ~ト君が、初めてお布団の上に横たわるルイちゃんのそばに来て、しばらくの間一緒にいました。最後のお別れでもしていたのかな?!

翌日(7月9日)、明け方の5時半頃ふと見てみると、ルイちゃんはとても穏やかに静かに眠っていました。こんな表情を見られるなんて!
「このまま落ち着いてくれたらいいのになあ」と思いました。
そして朝になり、急に立ち上がり、二日ぶりに自力でうんちをしました。うんちがしたいという感覚、そして起き上がってトイレに向かう動きが出来たのは本当にすごいことだと思いました。

その後フローリングの上に寝かせ、少し用事をしてからルイちゃんの方に目をやると変な動きをしていました。すぐに近寄って見ると、口を大きく開け息苦しそうに大きな呼吸をしていました。
これまでお別れして来た子達が最期に大きな呼吸を数回して息を引き取ったように、ルイちゃんを抱き上げると大きく口を開き、そして力尽きてしまいました。

「とうとう来る時が来てしまった」と思いました。急変してから4日目の朝のことでした。いつもこの瞬間が辛くて・・・淋しくて・・・。

その後、うんちが出て汚れてしまったルイちゃんを、主人がきれいに洗ってくれました。そして私が乾かして、ふわっふわのいつも通りの可愛らしいルイちゃんになりました。

7月11日、ルイちゃんとのお別れの日は、台風一過ですっきりと晴れ渡った一日となりました。

私は朝から棺の中に入れるための写真を選んだり、病院前に咲いているお花を切って用意しました。そして、お昼にみんなでお別れの準備開始となりました。

ルイちゃんの周りをいっぱいのお花で囲み、ルイちゃんが淋しくならないように、棺の内側にみんなとの思い出の写真をいっぱい貼って、スタッフからのお手紙と共に、毎朝主人が磨いてくれた歯ブラシも一緒に入れました。

みんなのお陰で、ルイちゃんは天国への贈り物の様にとっても可愛らしくなりました。
スタッフと義妹、友人の総勢9人で写真を見ながら、“わいわいがやがや”なんだか本当に楽しくて・・・。
亡くなる前日と当日にも、それぞれ元スタッフがお子さんと一緒にルイちゃんに会いに来てくれました。そんなみんなの思いがやさしくて・・・。お別れの淋しさよりも、こんなにしてもらえるしあわせに心から感謝しました。

こうして沢山の人のやさしさに包まれながら、ルイちゃんは虹の橋を渡って天国へと旅立っていきました。



大切な動物とのお別れは、どんな時も本当に悲しく淋しいものです。苦しそうにしている姿を見るのは本当に辛く、何をしてあげたらいいのかと、誰もが辛く思うものだと思います。

以前に、心臓に疾患のあるワンちゃんの飼い主さんが、食欲も減り弱って行く愛犬の姿を見て、とても辛そうにされていました。飼い主さんとして何をしてあげたらいいのか困惑されているようでしたので、私がそういう時にいつも思って、今までしてきたことをお話させて頂きました。
それはとてもシンプルなこと・・。その時に出来得る限りの医療を施したのなら、あとは愛情いっぱいでその子を包んであげること。

動物たちは飼い主さんのやさしい眼差しと手のぬくもり、声のトーンからさえも沢山のことを感じているはずです。だから病気で不安を感じているその子に、「大丈夫だよ、一緒に頑張ろうね」と言ってやさしく声をかけ、身体を撫でてあげること。

食事やトイレのお世話、その他どんなことをする時も、やさしい表情でみつめてあげること。“そばにいるから大丈夫だよ”と、あたたかい思いで接して安心させてあげること。
“え?そんなことなの?”と思われるかもしれませんが、私はそういったことこそが、誰にでも出来る最も大切なことだと思っています。


そんな事をお話させて頂いたら、その飼い主さんがほっとされたような表情になりました。それから数日後、その飼い主さんがワンちゃんとお別れをされたと、病院にご挨拶に来てくださいました。
その際に、「エリーがあれから歩いてくれたんです。そして最後の日も食べてくれたんです」と、とても嬉しそうに伝えてくださいました。
随分大変な状況の時もあったと思うのですが、きっとやさしい思いで、いっぱい関わることができたんだな~、だから淋しさはあっても悔いが残らなかったのかもしれないと、とても嬉しく思いました。

動物とお別れした後、“何もしてあげられなかった”と自分を責めて後悔を残すのはとても辛いことです。
私もルイちゃんに対して、そんな思いになりそうだったので、本当に辛くて涙が止まりませんでした。

だからこそ精一杯愛情をかけお世話をして、悔いを残さないことが、本当に大切なことなんだと思います。

命は永遠ではなく、時として医療にも限界があります。
しかし、人のやさしさには限りがありません。

それも人それぞれ立場や環境も違いますし、動物たちの状況も違うので、その時に出来る自分の精一杯でいいのだと思います。その精一杯は自分自身が一番よく分かっているので、たとえ出来ないことがあっても、それはそれでまたいいのだと思います。

一番大切なことは、どんな思いでその子に接し、その子を守るのか。また、これまで楽しくしあわせな時を一緒に過ごさせてくれたことへの感謝と、どんな状況であっても最後の最後まで精一杯、本当によく頑張ってくれてありがとう、という思いで見送ることなのではないかと思います。

今現在も沢山の子たちが、それぞれのお家で、ご家族の愛情に包まれながら頑張ってくれています。
中には寝たきりで頑張っている子、認知症の症状が出始め、時には徘徊しながらも頑張っている子、慢性腎臓病で一時は危険な状態になりながら頑張ってくれている子・・・。

頑張っているその子の後ろには、それぞれにその子にとって一番大切な人がいて、皆さん本当に頑張ってくださっています。でもそれは、時として口で言う程、容易いことではない場合があります。本当に苦しい介護を強いられることもあるかと思います。でもやはりその子にとっては、頼りになるのはご家族以外はいないのです。

介護が辛くなったら、遠慮なく言ってください。困ったことがあったら、何でもご相談くださいね。どの子も与えられた命を全うするまで、私達も諦めることなく、お手伝いをさせて頂きたいと思っています。

動物たちが大好きなものは、家族の笑顔。動物たちが最もしあわせを感じるのは、家族のみんなが仲良く楽しそうにしている時。みなさんが、その子のために優しい笑顔でいられますように・・・♪

ルイちゃんのこれまでのお話は
「病院の仲間たち」に載っていますので、
そちらも是非ご覧くださいね。

担当 増田葉子

 

 

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