りーちゃん

 

リーちゃんには、一時期お家がふたつありました。
ひとつはお母さんと一緒のお家、そしてもうひとつが先生や看護士さん達がいる病院、そのふたつがリーちゃんにとってのお家でした。
平成12年に、糖尿病に罹ったリ−ちゃんは、毎朝1日1 回のインシュリンの注射が必要な身体になりました。リーちゃんのお母さんは、とってもリーちゃんを大切にされていましたが、大変お仕事がお忙しく、注射を打つという作業にも不安があるということと、リーちゃんに何らかの変化があってもすぐに対応できるようにということで、病院でリーちゃんをお預かりして、先生が毎日のインシュリンの量を調整し、お注射を打っていくことになりました。

 

リーちゃんとお母さんとの出会いは、平成6年のある晩のことでした。
リーちゃん 通路の隅にいた猫ちゃんの前を通り過ぎようとしたところ、目と目が合い「ニャオ〜ン! お願いです。助けてくださいにゃお〜ん!」と声を掛けられ、リーちゃんは、その晩から大事なお母さんのパートナーとなりました。リーちゃんが、まだ生後8ヶ月頃のことでした。
リーちゃんのお母さんは、リーちゃんのことがとっても大好き!
グリーンのまん丸お目目のリーちゃんは、夜になると瞳がエメラルドグリーンに輝き、その瞳を見つめてお母さんはうっとり一言「リーの瞳は、宝石よりもきれいよ〜☆」・・・キラッ☆

 

リーちゃんはリズム感がとってもよくて、音楽に合わせて右に左に上に下にとしっぽを振って超ご機嫌♪ それがなんと音楽にぴったりあって……その様子を見ていたお母さん、にっこり微笑んで「リーちゃん、本当にじょうずね〜♪ いけてる〜!」
また冒険心がとっても強くておてんば娘だったリーちゃんは、ある日神社の大きな木に登ってしまい、近くの交番のおまわりさんに助けて頂いたり、4階から2階に飛び降りて、屋根づたいにお散歩に行ってしまいお母さんビックリ☆
ひやひや・ドキドキのお母さん慌てて一言「リーちゃ〜ん、そんなにお母さんを驚かせないでよ〜! でもそんなところもとっても可愛いわ〜♪」
リーちゃんリーちゃんが両手をきちんと揃えて座る姿も、モンローウォークみたいに歩く姿も、何を考えているのかボーっと外をながめているその後姿も可愛くて……と、リーちゃんとの暮らしは、色んなことがあって面白くて楽しいとお母さん!
またリーちゃんと一緒に暮らすようになってからは、早くリーちゃんに会いたくて、会社が終わるとどこにも寄らずに直行で帰るようになったり、それまでよりも尚一層、他のわんちゃんや猫ちゃん、鳥などにも興味がわくようになり、ご自身が優しくなられたそうでした。

 

そんな楽しい毎日でしたが、平成12年の1月に、ちょっと元気がなく吐き気があり、またここに来て急に痩せてきたということで、りーちゃんはお母さんに連れられ病院にやって来ました。そして検査の結果、リーちゃんが糖尿病に罹っていることが判明しました。

 

この時のリーちゃんの状態をもう少し詳しくお話しますと、3ヶ月前は5.7kgあった体重が、1月の診察の時点では4.0kgに激減していました。これは人に例えると、57kgだった人がたった3ヶ月の間に、40kgになってしまった計算となります。血液検査では、血糖値の正常が100mg/dl前後のところ、リーちゃんは476mg/dlと異常値を示し、糖尿病と判明しました。
糖尿病とは、血糖値が食後でも空腹時でも常に100ml/dl前後と一定に保ち、高くなり過ぎないように調節するインシュリンというホルモンが不足して起こる病気です。
血糖値が高くなってしまうと、多飲・多尿・多食(水を沢山飲み、尿量が増え、食欲が旺盛になること)の症状が出始めます。リーちゃんのように、やせてくるのはこの多飲・多尿・多食が何ヶ月か経過してから出てきます。ある意味糖尿病が進行してからということになり、最終的には死亡してしまう事もあります。従って早期に発見するためには、この症状の異常(多飲・多尿・多食)にいかに早く気付けるかにかかってくるのです(糖尿病のようにたとえ食欲があっても、病気である場合もあるのでご注意ください)。

 

リーちゃんも半年前辺りからおしっこの量が多かったけれど、暑い夏だから水を飲む量が多いのだろうと、それが異常なことだとは気付かなかったということでした。実際に暑い季節だから水を沢山飲むようになったと思い込み、多飲の症状を見逃して、病気の発見が遅れてしまうケースもままあります。
院長から糖尿病だと診断され、治療しなければ吐いて徐々に痩せて死ぬこともある。あと1ヶ月ないしは1ヵ月半、2ヶ月はもたないかもしれない。でも実際にやることは大変なことだけど、インシュリンさえ打てば生きられるとお聞きしました。そんな命にも関わることもある病気だと知って、この時リーちゃんの身に起こっている現実を初めて知ったお母さんは、あまりに突然のことにショックを受けて、これ程泣けるのかと思う程一日中泣いて、食事も喉を通らなくなってしまいました。

 

リーちゃん 糖尿病と判明したリーちゃんは、早速インシュリンの治療を始めることになりました。
まずはおおよそのインシュリンの量を決定することが必要になります。そのために数日間入院し、朝インシュリンを打ち、その後1日に何回か採血し、血糖値を調べその変化をグラフ化し、24時間の理想的な血糖値のグラフが出来るように、インシュリンの量をこの何日間かの間に捜していきます。
入院中にインシュリンの量が決まったら、それ以降はその日その日の尿を検査し、尿に出てくる糖の量によって、毎日インシュリンの量を微調整し、自宅で飼い主さんがインシュリンの注射を打つことになります。しかしインシュリンの量を多めに打ってしまうと、急激に血糖値が下がり過ぎ、時には命に関わる危険もあるので、充分注意が必要となってきます。

 

食事も喉を通らなくなるほどショックを受けてしまったお母さんに、先生は「これから毎日朝のおしっこの糖を調べてインシュリンの注射を打てば、りーちゃんはきっと生きて行くことができますよ。もちろん、これからも様々な問題が起きるかもしれませんが、私達が全力で協力しますので、一緒に頑張りましょう」とお話をさせていただき、お母さんは、その言葉を聞いて初めて安心することが出来ました。

 

リーちゃんのお母さんは、毎日朝早くに電車に乗ってお仕事に行かれ、なかなか時間がありません。
リーちゃんは病院にお泊りですが、お母さんがお休みの日にはお迎えに来てもらって、自宅に帰るという生活が続きました。
何日もお泊りが続いていてもり〜ちゃんは終始リラックスモードで、まるで病院が我が家のよう。一日がみんなの「りーちゃん、おはよ〜♪」から始まりました。
いつも「ご飯頂戴、頂戴よ〜!」と言って甘えるリーちゃんも、糖尿病という持病があるため、毎日細かにインシュリンの量を調整して、きっちり打っていても、リーちゃんの体調によってうまく血糖値が安定しない日もたまにあり、ぐったりしたり、時には胃液を吐いたりと、みんなをはらはらさせました。いつも明るく表情豊かなりーちゃんが、元気がなくじ〜っと静かにしていると、こちらまで元気がなくなってしまいます。それでも点滴等の治療をすると、いつものリーちゃんに戻って一安心。
やっぱりリーちゃんは元気に「ニャ〜ン、ニャ〜ン♪」と甘えてくれるのが一番です!
リーちゃんそしてお家で待っていたお母さんはと言うと、リーちゃんを病院に置いて、ひとりでお家に帰られる時は淋しくて後ろ髪を引かれる思いになり、またお休みの前の晩は、まるで恋人にでも会うような気分で心がウキウキし、明日はリーちゃんと一緒に帰って来れると思うと、次の日がくるのがとっても待ち遠しかったようでした。そしてリーちゃんも、朝お母さんが来てくれると真っ先にお母さんを見て「お母さんだ☆ にゃお〜ん♪」と大きな声で呼び、とっても喜んでいました。
嬉しそうに帰るお母さんとリーちゃんに、本来は「お大事に〜♪」とご挨拶をするところ、みんなで「いってらっしゃ〜い♪」とお見送りをし、お母さんも元気に「行ってきま〜す♪」と言って、自転車のかごにリーちゃんを乗せて一緒に帰って行かれました。
自宅に戻ったりーちゃんはお母さんにいっぱい甘え、穏やかでしあわせなひとときを過ごし、そしてまた次の朝「おはようございま〜す♪」「おかえりなさ〜い♪」とご挨拶を交わし、また一日が始まる、そんな日々を過ごしました。

 

それから4年後、会社を勤め上げられたお母さんは、無事に定年をお迎えになり会社を退職され、今は毎日ず〜っとリーちゃんと一緒の生活に戻られました。
そして今でも変わらず毎朝9時にはインシュリンのお注射の日々です。雨の日も風の日も、たとえ槍が降ろうとも(?)、お母さんはリーちゃんのために、365日一日も欠かすことなく、インシュリンのお注射を打ちにリーちゃんと一緒に病院にやって来られます。先生もお盆もお正月もなく、一日も休むことなく朝の9時にはリーちゃんを待って、お母さんと一緒にリーちゃんが一日でも長く元気でいてくれるように、頑張っています。

 

リーちゃん 毎日一緒に生活できるようになったお母さんは、日々リーちゃんと楽しく、また穏やかに暮らしているようです。
リーちゃんは色々な声色でお母さんに話しかけたり、お母さんの枕元で一緒に寝たり、コミュニケーションもいっぱい出来て、お互いの気持ちも前よりもずっと分かるようになりました。
リーちゃんは昼間の時間は、自分の一番居心地のいい場所を見つけて「クークー」と小さないびきをかいて寝ています。
手を目の前で交差させ、可愛い仕草で眠るりーちゃんを見ながら、お母さんはとっても心が癒され、穏やかな気持ちになっていき、ふんわりとしたしあわせに包まれてゆきます。

 

リーちゃんのお母さんが、私たちにこんな風に伝えてくださいました。
「リーが糖尿病だと分かり、私がショックで大変になってしまったあの時、先生と葉子さんが寝ずにみてくださったり、お電話で詳しく分かりやすく説明してくださり、本当にあの時は安心することが出来ました。リーが病気になってから、リーに対する愛しさが益々増して、親子共々しあわせを感じています。もしあの時死んでいたら悔いも残るし、今の生活を味わうことは出来ませんでした。院長先生、葉子さん、看護士さん、皆様方本当にありがとうございます。心より、お礼と感謝を申し上げます。」

 

リーちゃん こちらこそ、リーちゃんをどこまでも大切に育ててくださって、ありがとうございます。
ひとりぽつんと通路の隅にいたリーちゃんが、優しいお母さんと出会うことが出来たから、こうした大変な病気をもちながらも、しあわせに暮らしていられるのだと思います。
何度も大変な状況になりながらも、いつも迅速に対応してくださるからこそだと思っています。
可愛いリーちゃんと暮らせるお母さんと、優しいお母さんと暮らせるリーちゃんは共にしあわせですね。それが一番ですね♪

 

リーちゃん、愛情をいっぱい注いで大切にしてくれるお母さんのためにも、これからもずっとず〜っと元気で頑張ろうね♪ みんなで応援しているよ!

担当 増田葉子

 

 

 

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